雇調金は上場企業に必要か?

東京商工リサーチの調べによると、2021年7月末までに開示された資料を集計した結果、「上場企業の」雇用調整助成金の受給額が合計5,190億円を超えた。金額でいうと、9社が100億円を越え、1億円以上5億円未満が273社(全体社数の約3割)、10億円以上が105社( 全体社数の 約13%)とのことだ。
交通インフラ、外食、サービス、アパレル小売などの金額が多い。

正直、この記事を見て驚いた。上場企業に雇調金の給付が必要なのだろうか?

確かに、国が定める経済的な給付条件は満たしているだろう。しかし、資産規模が異なり、これまで、そしてこれからも享受する、社会的価値(信用など)も中小企業とは全く異なる。
例えば、私のような小規模スタートアップ企業の経営者は、借り入れが難しい。住宅ローンなど、まず無理だ。勿論、十分かつ立派なトラックレコードを持つ経営者ならば大丈夫だろう。賃貸住宅の家賃保証の審査も、かなり怪しい。
しかし、特に日本では、所属が重要で(なぜならば、自分で判断するトレーニングを受けていないから)、社会的信用という、おカネで表現できない社会的価値は、一部の人間だけが享受でき、それは多くの選択肢を与えるものなのだ。

私は、収入ゼロでも、税金が絞り取られる立場にある。そして、経営者である為、失業保険など、何のセーフティーネットもない。私は、会社の負債がないが、中には会社をたたんでも、会社の負債が個人の負債となった方もおられる。
そのような立場にある者がとられた税金は、上場企業の役員、従業員の富を増やすだけではないのか、と腹立たしくて仕方がない。

実際には、どれだけ経営が苦しいのか、娯楽施設であるオリエンタルランドの財務諸表を調べてみた。

財務諸表から見えるもの

2022年3月期の第1四半期(2021年4-6月)を見てみた。すると、こう書いてある。

「雇用調整助成金 (中略)当第1四半期連結累計期間は雇用調整助成金の既受給額及び受給見込額を、売上原価から2,890百万円、販売費及び一般管理費から113百万円控除しております。」

これから読めることは、2,890百万円+113百万円 =3,003百万円(30億円)が雇調金収入だったということだ。

他に、助成金収入がある。自治体による時短要請に応じた協力金だ。これが、291百万円(2.9億円)。

二つ合わせると、約33億円が税金だ。

この期間の利益は純損失で、60億円の赤字。営業利益で見ても、88億円の赤字。
ここだけを見ると、致し方ないと思うかもしれない。しかし、B/Sを見ると、納得がいかない。

流動資産だけで、2,300億円もあるのだ。現金だけでも1,850億円だ。勿論、負債合計が2,720億円なので、支払利息や償還元本の負担など考慮する必要はある。

それにしても、これだけの企業が33億円の税金を「もらう」必要があるのだろうか?
はっきり言って、経営は揺らいでいない。

今後、コロナが終息し、景気が回復すれば、この企業は再び本業で収益をあげ、今までと変わらず、いやコロナ以前よりも裕福な生活を役員、社員に約束するだろう。なぜならば、カネ余りで、「勝ち組世帯」は高い入場料のプライシングにも躊躇しないからだ。そして、役員、社員は社会的価値の恩恵にも、引き続きあやかることができる。

ある企業の不正受給

残念ながら、雇調金の不正受給はかなり高い頻度で行われていると思われる。
初めに言っておくが、これはオリエンタルランドの話ではない。
実際に、上層部からの指示で、出勤簿に休業と記入させられたが、実際には従業員はリモートワークにより、コロナ前と同様に運営している企業があった。確かに、売上は基準を満たしていたのであろう。しかし、実は雇調金などなくても運営が可能なのだ。更に、雇調金として受け取ったおカネは、従業員に支払われることもなく、役員報酬と内部留保とされた。内部留保だ。つまり、利益がある、という事だ。役員報酬は損金算入の要件から、当年度の収益確定前に決めなければならないが、従業員の賞与はゼロの可能性があるのに、先に役員報酬を確定させ、私欲を先に満たす、その神経が理解出来ない。
こんな事が、実はそこらじゅうで起きているのだろう。

誤解の無いように再度言っておくが、オリエンタルランドがそうだ、と言っているのではない。ここは、はっきり断言しておく。同社の内部事情は全く分からないし、知る由もない。憶測で物を言うなど許されない行為だ。

言いたい事は、「本来受け取る必要が無いところにおカネが渡り、それは何の価値も生み出していない事例がある」、という事だ。
しかも、それは私たちが強制的に徴収された税金だ。

雇用を守る」ではなく、雇用を創れ

よく耳にする言葉に、「雇用を守るため」というのがある。
昭和、平成の時代はそれで良かった。人を確保しておけば、景気が良くなれば収益を生み出せたからだ。しかし、現代は、雇用を守るよりも、創造力を駆使し、雇用を創る事を考えるべきだ。新型コロナにより、あらゆるものが変わり、従来の方法が通用しなくなった。変化が求められているのだ。上場企業は、人材とおカネがあるのだから、それら企業の使命は、真に価値ある仕事を従業員に与え、創造により社会に利益をもたらすことだ。

何もせずに、嵐が過ぎ去るのを待つ企業はもはや不要だ。あるいは元に戻そうとする企業も不要だ。即刻退場してほしい。社会の価値を奪うだけで、存在価値がない。所属先が消えそうになっても大丈夫だ。自分の能力を、自分の力で発揮できる者こそが、新しい時代で真に価値のある人間であり、それが今後必要とされる人材だからだ。そうなればいいだけだ。

夢の国ならば、現実の世界に、夢を作ってほしいものだ。それは得意なはずなのだから。

【参考資料】